いまさらではないが、東京スカイツリー(とうきょうスカイツリー、Tokyo Sky Tree)は東京都墨田区押上に建設された電波塔(送信所)である。ツリーに隣接する関連商業施設・オフィスビルの開発も行われ、ツリーを含めたこれらの開発街区を東京スカイツリータウンと称し、2012年5月22日に開業、環境対策も世界トップレベルだという。足元にオフィスビル、シアター、ミュージアムなどが入る建物ができ、全体で東京スカイツリータウンとなりますが、その東京スカイツリーは「時空を超えたランドスケープ」をキーワードに、最新でありつつも日本の伝統文化を体現し、強くしなやかに美しくあろうとする形を求めてデザインされました。足元が正三角形、上に伸びるにつれ円へと滑らかに変化するという、世界でも他に類のない珍しい形です。立体的に見ると、三角形の頂点から伸びる稜線(りょうせん)がわずかに反った形となり、石垣のような力強さを感じさせます。一方、お腹に当たる部分にはわずかに膨らんだ「むくり」が見られ、お寺や神社の柱を連想させます。全体は日本古来の絶妙な曲線で構成されていながら、しなやかでシャープなシルエットになっています。この美しい立ち姿を実現するため、構造上のさまざまな難題を克服しなければなりませんでした。
最も大がかりな仕掛けは地下に隠されている。地中熱を利用した地域冷暖房システムです。地下2階部分に、巨大なコンクリート貯水槽(高さ:16m、幅:8m、奥行き:16.8m)が4個あります。容量は約7000tで学校にあるような25mプールで17配分の水を蓄えられる。この「大容量水蓄熱層」の水は夜間電力を使って夏は5度の冷水。冬は48度の温水になり、昼間の冷暖房に使われる。冷温水は施設内に張り巡らされたパイプを循環する。その場所はスカイツリー本体とどまらず、隣の商業施設やプラネタリウム、31階建て高層ビル、東武鉄道本社ビルなどエリア一帯を賄う。
前の項で書いた地中熱の冷暖房はどのような仕組みなのか。地中の温度は年間を通じて15~17度と一定しています。簡単にいえばこれを利用した効率的に熱交換をおこなうシステムだ。スカイツリーでは地下120mと15mまでの多数のポリエチレン製チューブが埋め込まれていて、この中にも水が流れている。地下2階まで上がってきたチューブの水は熱交換機に入り、そこで冷暖房用のプールの水を冷やしたり温めたりする。地下に戻ると水温は元の温度に戻っていく。そのためにより少ない電力で水温を調整できるというわけです。プールの水は災害時には地元の生活用水としても提供される予定です。また火災の消火用にも使われます。
雨水は、低水槽ののトイレを流す水、屋上広場などの直物への散水、222枚の太陽光発電パネルの冷却水などに使われる。約60個の貯主層が地下に点在し、集中豪雨でも下水道に水を一気に流さない薄い抑制層と、ろ過殺菌をした雨水をためる貯留槽があり、容量は2635tあります。東京都によると、水を送るにはポンプなどで電力を使い、都内では1立方mあたり約200gのCO2が排出されます。スカイツリーのような大規模での雨水活用はCO2削減効果も大きいです。
スカイツリー本体を彩る明りには、省エネ性能の高い6種類のLED照明器具が、1995台使われます。このLED照明器具の製造元は、こうした建築物での従来の照明器具と比べ、40%前後の省エネとなります。施設内では、現在のエネルギー使用量を表示する「見える化」を導入します。スカイツリーには310店舗が併設される予定ですが、各店舗がエネルギーの無駄使いに気ずくように、電気、水道、冷温水の空調をどれだけ使っているのかを把握できるメータ(1日または1時間単位で使用料を確認できる)を設置します。
スカイツリーの構造上の特徴は、何と言ってもスレンダーで高いということです。東京タワーの足元の幅と高さの比率が1:3.5に対してスカイツリーは1:9.3、東京タワーより桁違いに細長いことになります。細くて高いことは、自立の工夫が必要になるのはもちろん、振動周期が長くなってゆらゆらと揺れやすくなります。実際に、強風や地震などでタワーに横向きの力が加わると、全体が巨大なテコのように働き、足元には一方を引き抜きもう一方を押し込もうとする大きな力が加わります。これに対抗するため、強力な足元固めが必要になり、新開発のナックルウォール、節付き壁杭という特殊な杭を使用しました。これは鉄筋コンクリートの壁を地中に構築し、それを壁杭として使います。これに加え、その壁に節のような出っ張りを設けて引っかかりを作り、引き抜きや押し込みの力により強く抵抗させます。また3ヵ所の節付き壁杭はお互いに壁でつなぎ、三角形を構成して横方向にもふんばる形です。これにより、縦方向や横方向の力に対して全体でふんばって東京スカイツリーを足元から支えます。
日本のタワーの祖先とも言える五重塔は何百年にもわたり地震に耐えています。その仕組みはいまだに技術的に解明し尽くされていませんが、中心を基盤から頂上部まで「心柱(しんばしら)」という1本の柱が貫き、この心柱と各層の構造が独立していることで塔全体の揺れを抑えていると考えられています。この仕組みを現代的に解釈し、タワーの中心を貫く鉄筋コンクリートの心柱と鉄骨トラスの骨格を組み合わせたハイブリッド構造としています。タワー上部のアンテナを取り付ける鉄塔をゲイン塔と呼んでいますが、ここはさらに細くて揺れやすいので、そのままでは電波の送信に影響が出てしまいます。そこで頂上に逆ふり子式制振装置を取り付け、アンテナの揺れを抑えています。
634メートルのタワーは前人未到の高さで、施工にもさまざまな技術課題がありました。たとえばタワークレーンは、在来型機種では一番大型のものでも300メートルの高さまでしか吊り上げられませんでした。そこで420メートルまで吊り上げられる特別仕様のタワークレーンを開発。狭い塔の上に3機設置してもクレーンのおしり同士がぶつからないようにコンパクトタイプを採用するとともに、新たに開発した互いの旋回が交錯しないように管理するシステムも搭載しています。それ以上の高さは、第1展望台の屋上にクレーンを移動し数も4機とし、このうち2機をさらに上へ伸ばしてリレー方式で鉄骨を積み上げていきます。一番大変だったのが風の影響でした。タワーに当たった風は、向きが急に変わったり渦巻いたりします。荷物があおられて回転し始めると大変危険です。そこで、タワーの周りの風をシミュレーション解析し、荷物がその大きさや形・重さによってどう影響を受けるかを調べ、この分析結果を基に荷物の回転制御装置を開発しました。
高いということは、垂直方向の精度も重要です。鉄骨を建てていくには、まず基準点を決めて鉄骨を建て、レーザー光線で計測して精度を確保し、基準点を盛り替えて(上の階に置いて)次の鉄骨を建て増ししていきます。しかし基準点の盛り替え回数が重なってくると、少しずつ誤差が大きくなる可能性があります。そこで光波測量器を使用した3次元計測システムを開発し、基準点の誤差が大きくなっていないかどうかをチェックして全体の垂直精度を確保することで、計測誤差を1ミリメートルにできました。また、鉄骨は太陽に照らされると温まって伸び、日なた側と日陰側では伸び方が違ってきます。さらに風が吹くとタワーが揺れ、大きな荷物を吊り上げているときに左右のバランスが悪くなりタワーが傾くこともあります。垂直精度の管理には、こうした影響も計算に入れる必要があります。
タワーの構造は、標準的な鉄骨よりも強度の高い高強度鋼管によるトラス構造となっていますが、すべての鋼管柱は斜め方向に傾き、それらの形状もすべて異なります。このため、三次元モデリングによるBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の使用が不可欠でした。設計・製作・施工のあらゆる場面において三次元モデリングデータを活用。BIMがなければ東京スカイツリーの建設は不可能であったとも言えます。
最初に、ナックルウォール(節付き壁杭)により杭を構築します。
壁杭の構築は、地盤に深い溝を掘りコンクリートを流し込む方法で行います。浅く比較的柔らかい地盤は土をつかみ取って掘る掘削機、深く固い地盤は回転する歯で削り取る掘削機を使い、深い溝を作ります。次に、一番下の円すい形の広がり部分の掘削を行います。掘削機を下まで降ろし、油圧で羽を開き回転させて土を削り取って円すい形を形成します。壁の途中にある節も同じように掘削します。節掘削機を降ろして羽を開いて回転させ、側面の土を削り取ります。節のある溝ができたら、組み立てたかごのような鉄骨と鉄筋を挿入し、その後コンクリートを流し込んでナックルウォールが完成します。
足元の3ヵ所は、地上から掘削した後に地下の一番下の層から順に構造体を造る順打工法。他の部分は逆打工法で、床を先に造り地下部分は下方へと地下躯体を造り、同時に地上躯体を上に造っていきます。外側の鉄骨トラスは、タワークレーンで下から積み上げる積層工法で建てていきます。一番下の鉄骨は非常に重いため、4メートルの輪切りにして搬入します。それでも最大で約30トン、一番太い鉄骨の溶接には熟練工4人で3日かかります。これを1つずつ500メートル近くの高さまで積み上げていくのは大変な作業でした。
ここまで鉄骨は1節ずつ積み上げる方法でしたが、一番上のゲイン塔は一段と高い所にあり、上空で組み立てるのは、作業の安全性、品質精度の確保が高さに比例して難しくなります。また、資材吊り上げに要する時間もどんどん長くなり、工程に大きな影響が出ます。そこで、ゲイン塔は地上で組み上げてから吊り上げる、リフトアップ工法で設置することにしました。塔体の建方と並行してゲイン塔の組み立ても行え、工期も大幅に短縮できます。鉄骨が組み終わったタワーの中心部の空洞で、ゲイン塔を最上部のパーツからだるま落としの逆の要領で組み立てます。1節組み立てるごとに引き上げ、全体を組み立て終わったら、塔体の最上部まで一気に吊り上げます。6本の柱に2本ずつワイヤーを掛け12台の油圧ジャッキでゲイン塔を引き上げます。塔体の頂上からゲイン塔が頭を出したら、そこにデジタル放送のアンテナを取り付けながら1段ずつリフトアップしていきます。さらに、ゲイン塔のリフトアップを追いかける形で、タワーの中心部の空洞部分に直径8メートルの鉄筋コンクリートの心柱を構築する工事をスタートします。この施工には、高い煙突を構築する際などに用いられるスリップフォーム工法を使います。型枠を滑らせながら、連続してコンクリートを打設していく工法です。この工法は高い煙突、高架橋の橋脚、空港の管制塔など、多くの施工実績がありますが、狭い空間の中で375メートルの高さまで立ち上げる、これまでにない工事となりました。心柱の構築でタワーの骨格は完成します。後は、内・外装、設備工事を進めて建設工事完成となります。
ゲイン塔
当日はゲイン塔の最終のリフトアップの1つ手前、619メートルから625メートルまで引き上げるリフトアップの作業中でした。構造体揺れの状況ですが、ゲイン塔の頂部の揺れはGPSによる計測記録の幅プラスマイナス2.5メートルを振り切り、最大でプラスマイナス3メートル、振れ幅にして6メートルほどと推測されます。ワイヤーで吊られたゲイン塔の塔体に対する上下動で10センチ程度、作業員が作業を行っていた塔体頂部495メートルで1.4メートルの揺れがありました。これらは、心柱制震およびゲイン塔頂部の逆振り子式制震装置がまだ作動していない状態での揺れです。大きく揺れた地震でしたが、事前に想定した範囲内であり、着工前から検討を進め対策も行ってきました。その結果、作業員や職員など全員無事でタワーの構造体に被害がないことが確認されました。一部、仕上げ材のパネル壁材が損傷しましたが、リフトアップ関連の仮設材では機能に影響するような被害はありませんでした。またタワークレーンに関しては、事前検討に基づいた対策を講じていたので全く損傷はありませんでした。 現場には、風や雷、地震を察知して現場内に音声アナウンスと警報ランプにより警告を発するシステムを設置していました。このシステムの緊急地震速報が計画通りに作動し、揺れ始めの約1分前に警報が発せられ、現場内では作業員の安全確保と作業の緊急退避が行われました。地震の揺れが収まった後は、避難行動マニュアルに従い、指定された避難場所まで退避して安否確認を行いました。もともと東京スカイツリーは耐震グレードが高い設計になっており、心柱による制振システムがない状態でも、構造体としては通常の建物並み以上の強度があります。今回の地震はこの検討の範囲内であり、損傷が全くないのも想定通りでした。リフトアップは、合計で3,000トンにもなるゲイン塔を吊り上げている状態なので、支える仮設材については入念な検討を行いました。特に吊り上げワイヤーの破断は絶対にあってはならず、法的規定を上回る震度7程度の縦揺れに対して破断しない強度に設計し、全く無損傷という結果でした。ワイヤー以外のリフトアップ関連仮設材はさらに高い強度が確保でき、問題はありませんでした。
タワークレーンの安全性確保に関して、通常の規格では震度5強程度の地震でも損傷しない仕様になっています。しかし、今回は東京スカイツリーというかつてない高さに設置しますので、塔体の上にクレーンを設置したモデルに震度5強の地震の負荷を加えた動的解析を行いました。その結果、追加の対策が必要であることが判明し3つの対策を実施。1つは、震度5強でも損傷しないように、タワークレーンを支える柱のマスト強度の25%の増強です。これで構造的な損傷はなくなりますが、2つ目の対策として一番高い位置に設置したものにオイルダンパーの制振装置を取り付けました。これでタワークレーンの揺れは半分程度に低減されています。3つ目は、クレーンの腕の部分であるジブのあおり防止装置です。ジブが上空の強風を正面から受けて後ろに引っくり返るのを抑えるため、前から常にワイヤーで引っ張る新しい技術です。この装置を付けたため、地震の揺れにもジブが暴れることなく無損傷でいられました。東京スカイツリーに関しては、万一起こるかどうかの事態に対しても緻密(ちみつ)に準備し対策を取っていました。そのおかげで、工事進行の障害になる被害は全くなく、震災の1週間後にはゲイン塔の最終リフトアップを行い、634メートルの高さに到達できました。東京スカイツリーは、未完成状態でありながら激しい揺れにも耐えた耐震性とともに施工技術や安全管理の信頼性を実証できました。
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